魔法、ひとつくださいな。 都会の喧騒から離れたところの、田舎の小さな町。その町の人里からはずれた田畑の真ん中に、一軒のお店がぽつんと建っていました。そのお店の名前は「駄菓子屋ひより」。お店にいるのは、1人の冴えない若い店主と、1匹の飼い猫。置いているのは名前の通り、駄菓子の数々。特別珍しくもない、年季の入った駄菓子屋さんです。ただ、注意深い人ならば気づくかもしれません。店の入口に、1枚の張り紙がしてあることに。店と同じぐらい年季の入った、黄ばんだ紙に書かれているのはこんな言葉。『魔法有リ□(マス)』魔法――。誰もが夢に見る不思議な言葉。どんな夢も叶える不思議な力。でも、現実には存在しない力。普通ならば、こんな張り紙は冗談だと思うでしょう。でも――この張り紙が冗談じゃなかったら?この店には本当に、魔法を置いているとしたら?夢や願いや悩みを魔法で解決することができるとしたら?それはとても、とても素敵なことではないでしょうか?そう思ったのは、私だけではないようです。ほら、今、お店の前で足を止めた1人の少女。この後、お店に入った彼女はきっと、こう言うのです。「魔法、ひとつくださいな」――って。 |
WEDDING BLUE 比奈とは、大学時代からの付き合いだ。喧嘩になってもそのたびに仲直りして、より絆を深めてきた。就職したらすぐに結婚しよう、なんて話もあった。だが、仕事に慣れて社内での責任が増してくれば、忙しくなってしまう。結婚への夢なんて、後回しだ。そんなある日、比奈の様子がおかしいことに気づいた俺は、彼女を問い詰めた。そして互いに素直な気持ちをぶつけ合った後で、言ったのだ。『結婚しよう』と。結婚したって、夫婦喧嘩がある。でも俺は、比奈を愛している。これからも、喧嘩して仲直りして、比奈と一緒に生きていきたい。数十年後にも、比奈と笑い合っていたい。――霧斗くんは、いつも忙しそうだ。私との結婚のために頑張ってくれている、そんなことはわかりきっているから、わがままは言いたくない。だからつい、霧斗くんのお兄さんや会社の先輩、近所の新聞屋のおじさんに、いろんなことを相談してしまう。私や霧斗くんよりも人生経験が豊富な人ばかりだから、頼りにして、甘えてしまって。霧斗くんと結婚できて、私は幸せだ。これからもずっと、霧斗くんと一緒にいたい。数十年後にも、霧斗くんと笑い合っていたい。そう願っているはずなのに――。 |
怨恨 |